今日は二子玉川ライズの蔦屋書店で行われる日本の革がテーマの以下のトークイベントにお邪魔してきた。
「いいレザーの日」を記念し、
『Discover Japan』高橋編集長とmethod山田代表でトークイベントを開催。
https://timeandeffort.jlia.or.jp/news/2019/10/11092207.html
開演ギリギリに到着したのだが、まず客席を見て驚いた。
用意されていた客席は50くらいだろうがそれが満席だった。
しかも、革好きのメンズが多いのかと思いきや断然女性が多い。
それも作家系の素朴な感じではなくて、20代のキラキラ系女子が中心で、中にはママさんやお一人様なんかも少なくない。
瞬間、「集客に自信がなくて運営がインフルエンサー呼んだんだろうな…」
という邪推。
をしたものの、その晩にSNSチェックをするも投稿は3件ほどしかなくハッシュタグも見つからない始末なのでまじで興味があったのか…と意外でしかない。
トークの内容としては正直なところ何ら面白いものはなく、自分も業界に携わって詳しくなったんだなあと感慨深い気持ちになった。
かと言ってイベントが楽しくなかったわけではなく、聴衆のリアクションが大変興味深かった。
それこそ最初、イベントが始まったときにはみなステージにスマホを向けてシャッターを切っていたし、特にクロコやヘビ革が広げられたときには総立ちだったんじゃないかと思っていたらオーストリッチではひとりふたりしかカメラを向けられていないとか…笑
オーストリッチだって高級素材の代名詞なのに…おばさんおじさんのイメージが強いのだろうか。
仕事柄これらの素材に触れもするし、扱いもするので今となっては感動することはないが初心めっちゃ忘れてんなという反省。
客席はもとより、イベントのゲストですら興奮していた様子だったので。
他にもヌメ革の説明ができなかったりしている様子を見ているとバイヤー、雑誌編集長を名乗っていても皮革の知識に精通しているわけではないんだなーと漠然と眺めておりました。
イベントの中で改めてウンウンと頷いたのは
・人類の歴史と密接な関係があること、
・命を頂くということ、
・食育の様に「物育」という言葉が囁かれ始めていること、
といったことだろうか。
それよりも勉強になったのはイベント終了後、主催の日本皮革産業連合会の方とのお話しだったろう。
まず伺ったのは先程ステージで広げられたクロコに関して。
と思ったのだがその方は爬虫類系は得意じゃないらしく、それがナイルクロコであるということしか回答は得られなかった。
続いてこの女性客の多さ。
インフルエンサーを周知してるんですよね?とダイレクトに聞くも昨今は実際にただ女性の方が増えているんだとか。
イマイチ納得はできないものの、SNSの投稿の少なさを見ると真実なのだろう。
彼氏や旦那へのプレゼントや理解を深めるためなんだろうか…感心してしまう…。
あとは革に関して。
2019年において、各タンナーの製法や科学的な知見もあるだろうなかで個性や違いをどのように出すのだろうかという疑問。
これは環境や実に絶妙な加減によるもので、否が応でも発生するようだ。
現に液剤などはドイツ製の同じものを使っているらしい。
主に影響を与えるのは水質、気候などの環境要因。
品質が良いとされるイタリーのレザーだが、実は内陸部は温暖湿潤気候で日本と近い要素があるよう。
ジャパンレザーも負けていないというのは技術力だけでなくそんな要因もあるようだ。
中東なんかでは水道水よりもコストのかからない地下水を汲み上げて使用することが多いのだが水質が良くなく、革の品質にも同様の影響があるらしい。
よくイタリアやフランスのレザーの発色が良いとされるのはそんな理由が最も大きいのだろう。
あくまで地域的に傾向はでるもののやはり全く同じものはできないとのこと。
革屋を長くやっていればどこで鞣し仕上げられたレザーか検討がつくとも。
自分はまだそこまでの審美眼はなく尊敬の眼差しを向けてしまう…。
しかし考えてみればこの話はウィスキーなんかにも共通して言える話だろう。
アイラ島だって東京23区くらいの面積にいくつかの蒸溜所が構えていて、その香りに一定の特徴があるもののどの蒸溜所のものも同じものはない。
聞いた話ではあるタンナーが100mほど離れた場所で2拠点で稼働しており、後にそれを1社化したところ畳んだ場所で使っていたレシピを統合先で使ったところこれまでと違う風合いの革が上がったようだ。
水道管やらなにやら、本当にちょっとしたことで、品質を揃えるのは本当に難しいのだろう。
また、国内で革の産地として姫路、東京、和歌山が挙げられタンナーが集中している背景としては排水設備が備わっていることがあるのだという。
確かに排水には気をつけなければいけないし、これを一企業単独でそう簡単に取り組むことはできないのだ。
続いては革のグレードの話。
原皮、鞣し、加工仕上げ…あらゆる段階で選別され、やはりグレードは存在するとのこと。
ただ一言でグレードというと誤解される話でもあり、何に適した革なのかを考え選定する必要があるとも語っておられた。
それは各パーツの裁断時に繊維の方向性を考慮することにも似ている気がする。
この話を聞いたとき、やはり一定数量をこなさなければならないメーカー製品よりも個人作家の制作物の方が良いものができるのかとも思ったが必ずしもそうとは言えないらしい。
確かにこだわることは大事だがそこにコストが掛かりすぎること、また知識が更新されなかったり偏りが生まれる懸念もあるだろうことだ。
これはちょっと盲点だった。
また昨今はブランド、メーカーは本当にユーザーのニーズを真に理解できていないのかもしれないと話していた。
高級メゾンブランドである某Pが高品質のベビーカーフに顔料を吹き付けて型押しをしていることに嘆いておられた。
本来、そのキメの細かさが最大の特徴なのにそれを殺してしまう加工を施すのだからその気持もわかる。
だがこれは企業がマスに向けて商品を作ればこそで、クレームや問題などのリスクを背負うことを避けるためだ。
傷、汚れ、色落ち、均一で美しい表情…
そういったことを危惧し避けることで無個性な製品が上がってしまう。
よく海外の人は革に理解があるので原皮の傷や色落ちなんて当たり前で日本人は気にし過ぎるなんて聞く話だ。
確かにその傾向は今もあるものの、マスに向ければそれは海外でも同様に過敏な層にも届く訳で止む無く素材の良さを隠してしまうことがあるようだ。
長々つらつらと記したが、そんな素材だから製品になればなおのこと全く同じものはない。だから面白い。
人間と同じように一つ一つに個性がある。
だから時には在庫を見比べて一番気に入ったものを…なんて気持ちも分かるが、
それも人と同じように縁や出会いと思うとメーカーから在庫を取り寄せてまで好みのものを手に入れたいというのは少し傲慢にも感じるなと思った次第であったとさ。